2024年は医師の働き方改革関連法施行年!再確認したい「変わる」ポイント

5年もの移行期間を経て、2024年4月より、医師の働き方改革関連法がいよいよ本格施行となりますね。何がどのように変わるのか、制度の中で個々の医師はどのように働いていくべきか、あらためて解説します。

働き方改革のねらい――医師と医療の未来のために

日本は、世界でも医療水準の高い国――これに異論のある方はいないでしょう。
しかし、その高い医療水準を支えている要素のひとつとして、長時間労働をはじめとする医師の献身であることがあげられます。
医療界に限らず社会全体の根底に「仕事優先」を是とする価値観が横たわっていたこともあり、医師、とりわけ勤務医の長時間労働や時間外労働は、問題視されるどころか当たり前とさえみなされてきました。
社会全体として働きすぎを改め、柔軟な働き方を可能にし、誰もが無理なく働ける社会を実現していかなくてはならない――このような視点に基づき、2019年に施行されたのが、「働き方改革関連法」です。同法は、労働基準法の対象となるすべての労働者について、時間外労働の上限や有給休暇の適切な取得を定めたもので、もちろん勤務医も対象外ではありませんでした。ただし、医療提供体制を確保しながら、なおかつ医師の労働環境を整備するのは課題が多いとの判断により、例外的に5年間の移行期間が設けられました。 2024年4月は、その5年間が終了し、「医師の働き方改革」が本格的に施行される区切りとなります。あらためて、制度施行後に医師個人と施設とが順守すべき事柄はどのようなものなのかを見ていきましょう。

ポイントは、ほぼ「時間外労働の規制」!!

働き方改革関連法は、全般に、労働時間とプライベートな時間、いわゆるワーク・ライフ・バランスをいかに適正化するかが重視された内容となっています。
医師の働き方改革においてもこれは同様で、改革の主要な内容は、時間外労働の規制にほぼ集約されているんです。

時間外・休日労働の上限規制

労働基準法上、一般労働者の法廷労働時間は⼀週間につき40時間以内、⼀⽇8時間以内(いずれも休憩時間を除く)、法定休日は週一日と定められており、これは医師も一般業種も同様です。
また、これを超えて労働させる必要がある場合、使用者は労働者との間で時間外労働の上限について協定を結び、労働基準監督署に届け出なくてはなりません。この届け出は、労働基準法第36条に基づくことから、通称「36協定」と呼ばれています。
一般事業者の場合、36協定に基づいた上限が適用されるのみですが、勤務医の場合はこれに加え、所属する医療機関(施設)と業務内容に基づいて医師個々について定める上限があります。
水準と、各水準の上限の規定を表にしてみました。

適用水準対象36協定で決める特別延長時間の上限時間外・休日労働時間の上限
A水準原則(全勤務医)月100時間未満/年960時間月100時間未満/年960時間
B水準B水準救急医療等により、自院内で長時間労働が必要となる場合月100時間未満/年1,860時間月100時間未満/年1,860時間
連携B水準地域への派遣・副業・兼業など、自院外の勤務を通算すると長時間労働となる場合月100時間未満/年960時間月100時間未満/年1,860時間
C水準C-1臨床・専攻医研修病院月100時間未満/年1,860時間月100時間未満/年1,860時間
C-2専攻医修了後の高度医療修得のための研修を提供する病院
(出典)https://www.mhlw.go.jp/content/001183185.pdf p2 より改変引用


なお、水準の申請は医療機関(施設)単位で行いますが、たとえば勤務する医療機関(施設)がC水準に指定されたとして、そこに勤務する全医師がC水準となるわけではありません。
適用はあくまでも個人単位であり、C水準の場合なら研修に関与する医師のみがC水準の上限適用となります。

健康を保ちながら働くための「追加的健康確保措置」

医療の質と安全を保つためには、何よりも医師自身が健康でなくてはならないのは言うまでもありません。このため、医師の働き方改革においては、時間外労働の上限規定とともに、適切な休息のありかたに関してもルール化がなされました。それが「追加的健康確保措置」です。

追加的健康確保措置

2024年4月からは、追加的健康確保措置として下記が義務となります。

1) 連続勤務時間の制限
2) 勤務間インターバルの確保
3) 代償休息の付与


1)の「連続勤務時間」とは言うまでもなく勤務開始から終了までの時間をさしますが、当直明けの連続勤務時間の上限は、宿日直許可を受けている「労働密度がまばら」の場合を除き、28時間とされています。全国医師ユニオンが2022年に実施したアンケート調査「勤務医労働実態調査 2022」によれば、医師にとって宿直明けに通常勤務というケースは珍しくないこと、そのような場合は「少なくとも 32 時間を超える連続労働となる」ことが記載されていますが、2024年4月以降、そうした勤務は違法となります。
ただし、有床の医療機関(施設)における医師の宿直は、医療法によって義務づけられています。したがって宿直そのものはもちろん違法ではありません。
また、事前の申請により労働基準監督署長による「宿日直許可」を取得した場合は、許可された時間を連続勤務時間にカウントしない事ができます。
2)の「勤務間インターバル」は、勤務終了から次の勤務開始までに、最低でも9時間、条件によっては最低18時間を連続して休息時間として付与をしなければならないというルールです。この場合の休息時間とは、業務から離れて睡眠を確保できる時間をさします。

条件と時間の取り決めは下記のようになります。

通常の日勤および宿日直許可のある宿日直に従事させる場合始業から24時間以内に連続で9時間  
宿日直許可のない宿日直に従事させる場合  始業から46時間以内に連続で18時間

なお、休息時間中に何らかの事情で業務に対応した場合、その時間分の休息を後で付与するのを3)「代償休息」といいます。
代償休息は、基本的には、不測の事態で休息を中断した医師を想定したルールです。そのため、原則として、代償休息の付与を前提にシフトを組むことはできません。ただし、手術など、特定の医師が連続して15時間以上対応する必要があると見込まれる場合に限り、業務終了後すぐに代償休息を付与するのであれば、例外として認められます。

転ばぬ先の杖――負荷がかかりがちな研修医と稼働時間が多い医師へ

追加的健康確保措置は、初期研修医(C-1水準)に限り、他水準の医師よりも厚めのものとなっています。
これは、研修医らは医師としても社会人としても歩み始めであり、先輩やベテランとはまた別の負荷がかかることを考慮してのものになっています。

具体的な内容は以下の通りです。

連続勤務時間制限15時間
勤務間インターバル9時間の休息を徹底順守。研修上の必要がある場合を除き、代償休息が発生するような業務に従事させない
休息時間通常の日勤および宿日直許可のある宿日直に従事させる場合は始業から24時間以内に9時間、研修の必要上、24時間の連続勤務が求められる場合は始業から48時間以内に24時間、連続した休息時間を付与

また、医師の働き方改革では、研修医だけでなく全勤務医師に対し、時間外・休日労働が月100時間以上になると見込まれる場合に面接指導を実施することを義務づけています。
面接指導で確認するのは、当人の勤務状況、睡眠状況、疲労度とメンタルの状態などになってます。
これによってその医師の現状を把握するとともに、必要に応じて業務の調整など何らかの手立てを講じます。

「個々の働き方」を管理・改革するためには?

医師の働き方改革が制度としては整っても、これまで長時間労働が発生していたのには相応の理由があり、変えたくても変えられない医師・現場もあるのが事実でしょう。
継続的に状況を改善するためには、医師は医師にしかできないことに注力できる状況づくりを進めていく考えが必要です。
特定看護師(特定行為研修を修了した看護師)とのタスクシェア/シフトや、医療クラークの導入、患者さまの理解向上など、以前から対応例は提示されています。これらをヒントにしつつ、医療機関(施設)単位・個人単位で業務をスリムにしていく対応が、引き続き求められていると言えるでしょう。
また、医師は不測の事態が発生したり、他医療機関(施設)の応援のため複数医療機関(施設)で仕事をされる事が多くあります。紙の記録や記憶では働いた時間があいまいになりがちで、自身でも医療機関(施設)側でも、どこでどれだけ稼働したのか管理しづらくなるのは否めませんし、結果的に労働時間が過剰になることもあり得ます。状況によっては、勤怠システムのアップデートなども検討することが、医師と医療機関(施設)側双方にとっての働き方改革につながるのではないかとも考えます。

まとめ

  • 過去5年の移行期間を経て、2024年4月、「医師の働き方改革」が本格的に施行されます。

  • 改革の主要な内容は、時間外労働の規制にほぼ集約されます。医師は原則的に、月100時間、年960時間を超える時間外労働をすることはできません。

  • 働きすぎを防止するため、連続勤務時間の制限・勤務間インターバルの確保・代償休息の付与という追加的健康確保措置も義務付けられています。

  • 医師の働き方改革は制度側の変更だけで成し遂げられるものではありません。医療機関(施設)単位でも医師個人単位でも、仕事の仕方を改革していく必要があります。


医師の働き方改革の根底にあるのは、良質な医療を提供するためには、医師もまた無理なく働き続けられなければならないという考え方。持続可能な医療提供体制を築き上げていくためにも、どうぞご自身の心身も大事にされてください。お困りのことがありましたら弊社お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください!

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